「属人化した仕事をなくしたい!」失敗する組織と成功する組織がやっていること
目次
「属人化の排除」を進めたい
製造業を中心に、近年ではサービス業でも「仕事が属人化することを排除する」という経営課題を掲げる企業が増えています。背景には人手不足やDX化、生産性の向上、ジョブ型採用も理由としてあるのかもしれません。

ご存じの通り「仕事が属人化する」とは、仕事が、社員個々人の技術やスキル、判断基準など、暗黙知に委ねられて行われている状態のことです。
このような状態、即ち「その人しかできない仕事」がある状態は、経営サイドにとっては好ましい状態ではありません。経営の可視化や業務の平準化、スケールを狙った展開、M&Aなどの際に支障がでる恐れがあるからです。
また現場サイドであっても、例えば、日々の仕事に「その人にしかできない仕事」が存在すると、その人が不在の時や退職した時など、業務が滞ってしまうことがあり、現場にとってもリスクやストレスになってしまいます。
属人化を排除するための手立て
そこで多くの企業では、「仕事の属人化を排除する」という経営課題を打ち出し、全社的に取り組むように指示するわけです。
具体的には、属人化している業務の担当者に対して、ヒアリングを行い、言語化、文書化、可視化、マニュアル化、デジタル化や仕組み化、ロボットや機械設備、生成AIなどを活用した自動化、それでも難しい場合は、人材を育成し、権限を渡すなどを行ったりして、属人化の排除を進めていくことになります。
手立てを打っても排除が進まない理由
このように、「属人化の排除」に向けた取り組みは様々にあります。解決方法が多くあり、また経営者も重視している課題ではあるのですが、なぜか、属人化の排除が簡単には進まない会社が多いのです。

・業務を順番に列挙するだけで簡単な手順書がつくれるのに、なぜかつくらない
・毎回入力すれば仕事が楽になるツールなのに、なぜか入力しない
・部下たちでもできるように教えれば、上司は楽になるのに、なぜか指導しない
経営サイドはこのような悩みを抱えており、信念をもって「属人化を排除しないといけない」と伝えるのですが、それでもなかなか現場では進まないものです。
なぜ難しいのでしょうか?
「属人化の排除」はメリットなのか?
現場で属人化の排除が進まないのには理由があります。
社員は経営陣に説得されて、属人化を排除するメリットを理解はするのですが、心の底から理解しているわけではありません。そのため、属人化を積極的に排除しようという行動にはつながらないのです。これが大きな抵抗になっているのです。
「生成AIに仕事が奪われる」問題と同じ構造
例えばこの数年、「生成AIの脅威」という文脈の記事が流行っていますが、更にもうひと昔、2014年に、オックスフォード大学のマイケル・オズボーン教授が「今後、10~20年で米国内の47%の仕事がなくなるリスクがある」と予測した時も、生成AIによる脅威が世の中の話題になりました。
しかし当時はまだ「生成AI」が一体どんなものなのか?が漠然としていて、どこか「他人事」という感覚だった人も多かったように感じます。
ところが今日の生成AIの進化は凄まじく、「いよいよ生成AIに仕事が奪われるかもしれない」と実感するほどの存在になりました。

・生成AIに仕事が代替されると、自分は食べていけるのだろうか?
・リスキリングすればよいと言うが、次の仕事も、すぐに代替されるのではないか?
・知識や専門性を高めてきたが、生成AIによって価値がなくなるのでは?
など、自分事として捉えるようになった結果、現在のように「生成AIは脅威だ」という捉え方をしている方々がいるのです。
私たちは様々なメディアや実体験に基づいて「生成AIは便利だ」ということを理解はしています。
生成AIによって完全なディストピアのイメージまでは持たないでしょうが、いくら生成AIが便利だからと言っても、「自分の仕事、自分の生計に関わる可能性がある」となると、どうしても脅威に感じてしまうものです。
仕事への不安が要因の一つ
この「生成AIは脅威だ」という捉え方と同様の反応が、経営者からの「仕事の属人化を排除してほしい」という指示が出た場合にも起こっています。
つまり、経営者から、「属人化を排除した方が、仕事が楽にできるようになる」「効率的になる」と言われたとしても、社員にとっては、属人化の排除によって仕事が楽になる面もありながら、どうしても自分の仕事が奪われる可能性も同時に感じてしまうのです。

その結果
・忙しくて、マニュアルづくりなどできない
・私がやった方が早いし、効率的
・デジタルは苦手。紙でやっても、特に問題はない
という判断がなされ、なかなか属人化の排除が進まないのです。
仮に、マニュアルなどを作成したとしても、自分の知恵や肝心なポイントまでを開示、明示してくれない、いわゆる「知識の出し惜しみ状態」が起こる場合も多く、
「結局、使えない」と言われるマニュアルができてしまう場合もあります。
身近なところでは、退職時の業務引継書に、このようなことが起こります。
視点を変えてみると…
ここまでお読みいただいて、もし、
『全く属人化の排除のメリットがわからない社員がいるなんて困ったものだ』
『自分のことしか考えていない社員だな』
このように感じられた方がいらっしゃいましたら、残念ながら、社内で属人化の排除のメリットを説いても、社員の方々には、その方針が届かないかもしれません。
なぜならば「一方的な角度から見たメリット」、つまり「経営者サイドのメリット」しか見ていないことに気づいていないからです。

「いやいや、現場サイドでもメリットはありますよ。それなのに、なぜやらないのか?」という程度のメリットしか提示できない場合では、現場には届きません。なぜならば、現場に多少のメリットがあったとしても、その数倍も経営サイドのメリットが大きい場合、かつ自分の仕事を失うリスクや心配、次の仕事へリスキリングする努力の大変さの方が大きいと感じられる場合は、やはり協力的に動いてはもらえないでしょう。
※経営者の方、特に創業経営者や成果を伸ばしている方は、ある意味、一方的なものの見方でも良いと思います。大事なことは、「現状では、属人化の排除によるメリットが、経営サイドに寄ったものになっている」と気づける幹部がいるかどうかです。
先ほどの生成AIの例でいえば、
「生成AIで便利な生活ができるようになるかもしれない。しかし、仕事を失い、生活ができないようになるのであれば、生成AIは脅威だ」
という捉え方をされてしまうでしょう。属人化の排除が進まないのは、まさにこの事例と似た状況なのです。
どんなに正しい経営方針であったとしても、その経営方針を実行するのは現場ですから、現場の協力が得られなければ、改革は進まないのです。
「正しさ」が最初のネック
「属人化の排除」を課題として中期経営計画や年度経営計画に挙げている会社を何社も見て参りました。
経営的には「正しい」課題設定です。しかし、正しいという見方は、一方からしか見ていない証拠でもあるのです。そのため、他の解決策が見えなくなる可能性があります。
つまり、この正しさ自体が問題なのです。
ですから、経営者サイドでの「属人化の排除、という正しさ」を一旦、横に置いて、現場サイドで属人化の排除はどう見えているのか?という視点で考えることが必要なのです。
経営サイドには見えない世界
経営サイドから見た「属人化した仕事」をしている方々は、

・人材育成をしていない人
・権限移譲をしていない人
・マニュアル化をしていない人
という、ある意味、少し困った存在かもしれません。
しかし、社員側から眺めますと、全く違った世界になります。
「仕事が属人化している」ということは、仕事が、社員個々人の技術やスキル、判断基準など、暗黙知に委ねられて行われている状態のことです。
技術やスキルが身に付き、暗黙知で判断できる人、即ち、属人化している仕事に関わっている人は、社員サイドから見れば、どのような状態で働いているのでしょうか。

仕事が属人化している人を想像してみましょう。
・その人しかできない技術やスキルがあり、困った時は、「この人に相談すれば何でも解決できる」という周囲に安心感をもたらしている人
・「この前の、あれ、急ぎでやってくれるか?」「はい。承知しました」と、阿吽の呼吸で話をわかってくれる人
・他社から引き抜きにあっても、今の仕事、今の会社が好きだという愛社精神の高い人
このような人は、現場では、周囲から重宝され、頼られ、尊敬される人になっているかもしれません。
では、そもそも、なぜ業務が「その人」に属人化したのでしょうか?
こう問いかけますと、もう気づく人はいらっしゃるでしょう。そうです。その人が、

・仕事をとっても頑張ってくれた人、
・誰もがやらない仕事をやり続けてくれている人、
・仕事に限らず何事にも気遣いや配慮をしていた結果、ノウハウが身についた人…
そのような人だったから仕事が属人化した、と考えられるのではないでしょうか。
このような人たちのことを、現場サイドは、
・あの人がこの仕事をやってくれるから、みんな助かっている
・彼女のお陰で、お客様とのトラブルが起こらないし、トラブルが起こっても解決する
・気遣い上手な彼がいることで、現場のコミュニケーションが成り立っている
・あの職人技は、機械ではできない
・お客様から「あなたから買いたい」と言われていて、尊敬できる
など、感謝の念や感動の気持ち、尊敬の眼差しをもって見ているのです。そして経営サイドから見ても本当は、長年、経営を支えてくれた、会社にとって、有難い人なのです。
このように、「属人化した業務を排除したい」という問題を考える際は、経営サイドだけでなく、社員サイドの視点からも見なければなりません。ここまで熱心に読んでいただいているあなた自身も、もしかしましたら経営サイドの役職になる以前は、このような人だったのではないでしょうか。
恐らく、このような人にとって仕事は、
存在価値や責任感、やりがいや誇り、ステイタス、楽しさや充実感の源泉になっている可能性があるのです。
場合によっては、その会社で勤め続ける理由になっているかもしれません。
少し詩的な文章になりましたが、このような観点は、経営サイドの視野には入りづらく、社員サイドも、経営サイドとは全く違う景色を見ているものです。
その仕事に対して、「属人化の排除してほしい」を伝えた場合、
それは存在価値の否定、無責任でも構わない、場合によっては、いつ辞めてもらってもよい、というような、誤ったメッセージに捉えられてしまう可能性を含んでいる、ということです。
存在価値や誇り、充実感が奪われてしまうと感じているかもしれないのですから、モチベーションが下がってしまうのは普通のことでしょう。そのため、「属人化の排除」と伝えられても、協力的になってくれない、やる気になって取り組んでくれない、なかなか属人化の排除が進まない、という、期待していることと全く反対の結果に終わってしまうのです。
属人化が問題なのではない。真の問題とは?
表面だけを見て、「業務が属人化している。だから属人化するな」と言ってしまうだけでは、解決ができないのです。また属人化の排除が実現したとしても、企業を支えている大切な人材がやる気を失ったり、社風や人間関係、エンゲージメント、離職率が悪化してしまったりなど、また新たな問題が生じてしまうケースもよくあります。
ですから、真に解決するためには、
もう一層、深いレイヤーでの解決策を探らないといけないのです。
そもそも、なぜ属人化してしまったのでしょうか?
属人化の問題は、個人の問題に見られてしまいがちです。しかし、個人が頑張ったり、責任感持ってやらないと仕事ができなかったり…。つまり、仕事が個人に属人化してしまうのは、属人化させてしまうような「仕組み」が存在する可能性が高い、ということです。
「属人化する仕組みをつくった覚えはない」
その通りでしょう。
意識してつくったわけではなく、様々な経営的な課題や、企業のステージなどの環境も含め、「業務が属人化している問題」は、「仕組みが不十分だったため、人が頑張るしかなかった」ことが問題だったのです。
まとめ
実は、「属人化した仕事を減らす」ことに成功している企業が最初にやっていることは、「属人化した仕事を排除しよう」と伝えることではありません。

<イラスト:まとめ>
1.(否定的な観念や色眼鏡を外して)属人化した仕事をする社員の立場で考える
2.社員へのヒアリング
3.自社の仕組みを再設計する
この手順で進めていくことになります。
私たちも、多くの企業で「属人化した仕事をどうするか?」という問題に向き合ってきましたので、手立ては用意しています。
しかし、何か「正解」といえるような万能な手立てが一つあって、「成功している企業」になっていくのではありません。様々に手を打った結果「成功した企業」になる、と考えた方が良いでしょう。
世の中に同じ企業はありません。解決策も様々にあります。
特に、3の段階で、優れた仕組みが構築できれば、社員はその仕組みというプラットフォームに乗って仕事をするようになるため、仕事が属人化しているという問題は、徐々に解決されるようになります。
最後に一つ、難しい点が残っています。
それは、仕組み構築以前から長年働いてこられた方々が、なかなか仕組みに適応できない、今までの仕事の仕方を変えていただけない、という、先ほどこのブログ記事で申し上げた方々への対策になります。この点につきましては、また次回にお話ししたいと思います。
まずは、社員の立場でのメリットを考えること。そしてヒアリングをしていくこと。この手立てだけでも、随分、上司や部下の人たちの発言内容が変わってくると思います。その次に、仕組みの設計が重要になります。ぜひ実行してみてください。
続編記事

続編記事「属人化した仕事をなくしたい!」属人化の排除が進まない理由と最初の手立て では、属人化の排除の具体的な手立てやその前提条件について、ご説明いたします。
ぜひ続けてお読みください。
