「属人化した仕事をなくしたい!」属人化の排除が進まない理由と最初の手立て
目次
本記事は「属人化した仕事をなくしたい! 失敗する組織と成功する組織がやっていること」の続編です。前編をご覧になっていない方は、先に前編からお読みいただくことをお勧めします。
前編のまとめ
「属人化の排除」が進まない

製造業を中心に、近年ではサービス業でも「仕事が属人化することを排除したい」という経営課題を掲げる企業が増えています。また現場サイドでも「その人にしかできない仕事」が存在すると、業務が滞ることがあり、リスクやストレスになっています。
しかし、属人化の排除が、なかなか進まない会社が多いのです。
その要因の一つが、現場の人たちが、自分の仕事が奪われる可能性を感じてしまっていることにあります。このような現場に対して、経営サイドのメリットをいくら説いても、伝わりません。例えば生成AIの普及について、生成AIの有用性を説いても、生成AIによって自分の仕事が奪われると感じている人にとっては、脅威と捉えてしまう、まさに同じ構図になっているのです。
現場サイドでは、スター社員
経営サイドから見た「属人化は悪」ですが、現場サイドから眺めますと、属人化した仕事をする社員は
・困った時は、何でも解決してくれる人
・細かい指示をしなくても、阿吽の呼吸でわかってくれる人
・他社から引き抜きにあっても、簡単に辞めない愛社精神の高い人
・お客様からは「あなたからしか買いたくない」と言われている

このような状況の場合も多く、属人化は悪ではなく、むしろ職場内のスター的な存在になっている、また会社にとってもありがたい存在になっている場合も多いのです。
ですから、属人化の排除とは、現場サイドの仕事の意義や存在価値の否定、この会社で働く意味を無くさせてしまう手立てを打っている可能性があるのです。
前回の記事では、上記のような状況にならないようにするために、属人化の排除を進める際の注意点の一つをお伝えしました。
属人化の排除はどのように進める?
今回は、属人化の排除を進めるやり方になります。
多くの現場の人たちは、お金だけのために働いているわけではなく、「安定して」「心地よく」「無理なく」「自分のペースで」「家庭と両立しながら」「今のスキルを活かして」このような価値観を「良し」として働いているものです。
つまり、「企業を成長させたい」「簡単な仕事はロボット化して人件費を削減したい」「もっと創造性の高い仕事をさせてあげたい」「社員には様々なスキルを身につけ多能化させたい」…などのような経営サイドが考える価値観とは、少々、異なっているかもしれません。
このように、属人化の排除に限らず、「現場」に関わる多くの経営サイドの言葉は、経営として理にかなっていたとしても、実は現場のリアルな感情や価値観とズレている場合が多いのです。
属人化の排除の決め手
それでは、どのように現場の改善、属人化の排除を進めればよいのでしょうか。
先ほど、属人化している人を、現場サイドでは「スター的存在」とお伝えしましたが、実はそのスター的存在の人も、本当は解決したいところがあるのです。それは、そのような存在だからこそ、その人に仕事が集中してしまっている、という状態なのです。
そこで経営サイドは、属人化の排除の目的を、「管理が容易になること」「見える化させること」を第一の目的にするのではなく、また、社内で一生懸命頑張ってくれているスター的存在を念頭に、「属人化の排除」という経営的な言葉を使うのではなく、
「誰かに仕事が集中しすぎて、その人が疲弊する環境を整えたい」
ということを目的として設定するのです。
「安定して働きたい」「無理なく働きたい」という社員が持っている本来の価値観に沿うような目的に設定するのです。
この設定で、多くの社員は共感してくれようになるのです。

しかし、目的の設定だけでは、言葉だけになってしまいます。
実際、上記のような言葉は「キレイゴト」と捉えられてしまうと、協力をしてもらえません。更に、専門性の高い仕事や、企業内で重要な仕事を携わっている方の場合は、自身の仕事の価値の重要性を理解しているため、協力していただくことが難しい場合も多いと思います。
社員が属人化の排除に協力しない理由は「〇〇〇の欠如」
それでは、属人化の排除という目的ではなく、社員の安定のため、働きやすくするため、という目的を設定したにもかかわらず、なぜ協力をしていただけないのでしょうか?場合によっては、反発や拒否反応をされてしまうのはなぜでしょうか?
「協力をしない」背景があります。
それは「属人化の排除」は、現場の方々のもっている知識やプライドが大切にされていないと感じられるような言葉だからです。
「自分しかできない仕事があるから頼られている」
「この商品の品質を守ってきたのは、私だ」
などの意識に対して、属人化の排除に取り組むことは、「会社、組織に、ノウハウを取られて、終わり」という、存在意義を奪うプロセスになっているのです。

では、なぜノウハウなどを「取られて、終わり」と感じるのでしょうか?
もし、自社が取り組む「属人化の排除」が、社員から仕事やノウハウを取り上げる想定であれば、まさに社員が懸念し、防衛したくなるのも無理はありません。
もしかしましたら、
・過去にノウハウを共有したが、評価されなかった
・昔、リストラされた経験があって仕事にしがみつくようになった
・属人化の排除という方針が出たときから、抵抗勢力扱いされるようになった
などの経験があり、協力をしてくれないのではないでしょうか。
つまり、協力しないのは、
会社・組織への「信頼感の欠如」が原因なのです。
まずは信頼構築の仕組みづくりから
「ノウハウを教えたら、仕事を失った」こんなトラウマがあるからこそ、属人化した仕事を持ったのかもしれません。あるいはそんな想像をしているからこそ、協力しないのでしょう。
だからと言って、
「大丈夫。会社を信頼してください。だからノウハウを教えてください」
と言っても、怪しむ気持ちは変わらないでしょう。
ではどうすればよいか?
まず経営者や人事、経営企画の担当者が、経営サイドとして取り組むことは、「信頼を構築する仕組みづくり」になります。
仕組みと聞くと、機能的な仕組み、例えば評価制度や賃金制度などを想像されることが多いと思います。私たちは、そのような仕組みを構築する際も常に、現場の人や仕組みを活用する人は、どういう気持ちになるだろうか?を考えます。なぜならば当然ですが、実際に仕事をして動くのは社員だからです。
社員と組織との間で構築されていない信頼をどう構築するか?が重要なのです。
例えば、人間同士、信頼関係を構築するためには、まず先にこちらが相手を信頼しないと信頼関係は築けないことは語るまでもないでしょう。
中には「こちらが信頼しても、いつも裏切られる」という人もいらっしゃるかもしれませんが、それは、こちらが相手を「いつも裏切られる」という捉え方をしている点で、相手を信頼していない証拠になっているのです。

経営サイドが行うべき方策は?
属人化の排除について、リスクを感じている社員から信頼を獲得するためには、信頼という言葉を言うだけではなく、経営サイドが先にリスクを取る行動をすることが信頼の構築の一歩目になります。
「ノウハウが取られて、捨てられそう」と感じている社員に対しては、「ノウハウを無事にマニュアル化し、社員の育成に成功した後の契約」を用意することが重要です。
その社員は、過去のトラウマや自分の不安から「いずれ捨てられる」というイメージを描いているのです。ですから、次がしっかりイメージできるようにすれば良いのです。

例えば、その人のノウハウをマニュアル化し、周囲への委譲が終了した後は、その成功を起点にその人を「全社員スター化プロジェクト」と称したチームのリーダーという一つ上の役職の用意し、今の仕事を活かせるプロジェクトや仕事、そして給与を提示し、それを確約する契約を、属人化の排除に協力してもらう「前に」結ぶのです。
つまり、ノウハウを提供しても、今の仕事を活かせる仕事もプライドを持てる立場など、次の仕事がしっかりイメージできるようにすることで、不安が消えるだけではなく、新たな希望ややりがいが見いだせるようにするのです。
信頼関係を紡ぐきっかけとしての「属人化の排除」
このように、属人化の排除のボトルネックは、経営サイドの手立てが間違っているわけではなく、また社員サイドの怠慢でもなく、実は社員とその帰属している組織との信頼性の欠如が原因になっているのです。
逆に言えば、上記は一つの事例ですが、上記のような、社員との信頼性を構築する仕組みを構築していくことで、現場のナレッジが蓄積され、他社と組織能力において絶対差を生み出す企業になっていくのです。
属人化した仕事の原因は、その社員が熱心であったり、愛社精神があったから属人化していた可能性があり、社員の属人化を排除するということは、そのようなエンゲージメントの高い社員との心理的な関係を切ってしまう、組織に所属していた人が、排除されてしまう取り組みになってしまう可能性があるのです。
成功する属人化の排除は、管理の簡易化や可視化、効率化、戦略無き固定費の削減などのために行うのではなく、会社の成長と社員の幸せ実現のために行わねばなりません。そのために属人化を排除する場合は、会社・組織と、現場とが、信頼関係を構築することが決め手であり、その結果、属人化の排除が進むようになるのです。

今回は「属人化の排除」の進め方のお話でしたが、仕組みづくりも経営計画も、とりあえず何でも仕組み化、計画化したり、流行りや正解と思われる手立てを取り入れればよいのではなく、背景や現状、心理をつかんで、手立てを打ち、仕組みにしていくことで優れた仕組みが構築されるのです。
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